WEA Skill Up Workshop (Climbing) Report
3月15日(火)に滋賀県比良山系の北小松の岩場でクライミングのスキルアップワークショップが開催されました。オフトレールの急登を上がり、琵琶湖を見下ろす絶好のロケーションでのWSに3名が参加しました。限られた時間の中で、WEAコースで行うティーチングクラスも事前に学習内容を受講生で振り分け担当し、コース中にはなかなか集中的に学ぶことのできないクライミングの専門的な深い学びを得ることができました。活動を報告書にまとめました。
1.実施概要
1)主催 Wilderness Education Association Japan
2)協力 びわこ成蹊スポーツ大学
3)日時 開始:2016年3月15日(火)9:00
終了:2016年3月15日(火)18:00
4)場所 比良山系
- 休日はクライミング5.9/B4 ・クリスタル5.9/B3
- 本チャン気分5.6/B2P3
- まわり道5.7/B4 ※今回はトップロープクライミング
久田竜平(大阪体育大学大学院)
水津真委(びわこ成蹊スポーツ大学)
6)指導者 インストラクター:林綾子(WEA Certifying Examiner)
2.活動報告
天候:午前雨及び雪
集合をして軽く挨拶をした後に、クライミングの種類の確認やグレードについてTCを行った。普段何気なく「クライミング」という言葉を言っているものの、クライミングにもさまざまな種類があることを知り、驚いた。クライミングの種類を理解していく中で、事前にリサーチしアルパインクライミングとフリークライミングという大別をしていたが、林先生、参加者同士で話し合った中で、アルパインクライミングに対してはスポーツクライミング、フリークライミングに対してはエイドクライミングという認識が良いのではないかという事でまとまった。非常に理解しやすく、納得する種類分けとなった。クライミングポイントへ到着すると、ヘルメット、ハーネスの装着方法についてTCを行った。Own Riskの世界であるクライミングを行う中で、安全に対する認識は非常に重要であり、愛好者、指導者としてヘルメットやハーネスの装着方法についての理解が極めて重要なポイントであることを再認識した。また、ハーネス一つをとっても様々な種類があり、目的・用途に合わせて適切に装備を選ぶ重要性を改めて感じた。ビレイ方法やロープワークに関しても、確認を行った。一つのミスで命を落としかねないクライミングの中で、キーとなる技術である。繰り返し技術の確認を行い、パートナーとの確認作業等々を行っていく中で、クライミングは信頼関係の上に成り立つものであることを学んだ。(ルー)
天候:午後 晴れ
お昼前から、いよいよクライミングが始まった。クライミングシューズに履き替え、壁の前に立つ。果たして登れるのだろうか。そんな考えが頭をよぎる。壁に手をかけ、登り始める。手を引っ掛けられるポイントは?、足が掛けられるポイントは?それだけを考え、無我夢中で登っていく。ふと我に返ると普段登ることのない傾斜を登っていることに気付く。同時に自身のいる高さに気付き恐怖感が一気に心を駆け巡った。体は緊張し、思うように体が動かない。でも登るしかない。再び壁に集中し、ポイントを探していく。途中全くポイントが見つからなくなる。見渡してみる、手足を伸ばしてみるが見つからない。腕は疲労し体は震える。必死に考え、体をどうにか休め、ポイントを探す。そんな作業を繰り返すうちに少しずつ少しずつ上に登っていく。ついにトップロープの位置までたどり着く。そこで林先生やビレイヤーの言葉を聞き、後ろを振り返る。するとそこには今まで見たこともないような、美しく雄大な景色が広がっていた。同時に心が震えるような感動を覚えた。今まで、美しい山々の景色は見てきたことはあるが、これほどまでに自然を近く感じ、感動する景色はあっただろうか。体の疲労感を忘れてしまうくらいの自然の美しさと達成感を感じた。クライミングの魅力を強く感じ、もう一度、もう一度あの感動を味わいたい。そう思わずにはいられない体験となった。同時に、悔しい思いもした。どうしても登れない壁があった。次は必ず・・・この悔しさがさらにクライミングの魅力を引き立ててくれたように思う。(ルー)
3、参加者の感想
★「自然が・・・近い!」 徳田真彦(ルー)★
ワークショップが始まる前には大きなワクワクと不安がありました。ほとんどクライミングの経験がない私にとって、いったいどんな世界が待っているのだろうと期待せずにはいられませんでした。いざ岩壁を前にすると、これを登るのかというワクワクと同時に、人の命を預かる、人に命を預ける、道具に命を預ける、さまざまな要因が嫌でも緊張感を高めました。岩に取り掛かると、無我夢中に登りました。どこに手を掛けられるだろう、どこに足を掛けられるだろう、そのことしか考えていませんでした。ひたすら考え、岩を通してポイントを感じ、ひたすら上を目指して登っていました。トップロープのポイントが目に映り、「ようやく頂点にたどり着いた」そう思い振り返った瞬間、壮大すぎる自然がそこにはありました。「えっ!!」思わず息をのみました。今まで感じたことのない自然のエネルギーが全身にぶつかってきました。同時に疲労を忘れるほどの達成感が沸き上がり、心から笑顔になりました。いつまでも見ていられるような、浸っていられるような自然がそこにはあって、「自然が・・・近い!」、そんな感覚がありました。報告書を作成している今でも思い出すと胸が高鳴ります。クライミングにやみつきになった瞬間でした。ですが、クライミングの洗礼も受けました。最後にトライした岩を登り切ることができませんでした。その時は恐怖と疲労とで体が一切動かなくなってしまい、やむなくテンションを掛けてもらいました。その時の悔しさはここ最近で最も大きな悔しさであったかもしれません。登れなかった壁と向き合い、感情をぶつけようと思いますが、自然はあまりにも大きくその悔しさはすべて自分に返ってきていたように思います。ですが反対に、不思議と自然はその悔しさすらも包み込んでいたようにも感じました。「次は絶対登ってやる」そんな気持ちを持ちつつ、すっかりクライミングの魅力に憑りつかれてしまったように思います。最後に今回ワークショップを開催してくださり、クライミングの魅力を伝えてくださった林先生に心から感謝いたします。ありがとうございました。
★「クライミングの恐怖と魅力」 久田竜平(ルティ)★
2016年3月15日滋賀県比良山系にてWilderness環境下におけるクライミングのワークショップが開催された。これまで人工壁でのボルダリング経験しかなく、それも数回だったので、初めてクライミングへ挑戦することに不安と興奮を非常に感じていた。いざ当日、実際にアタックする岩場をみてより一層不安になった。あの恐怖感はこれまでに感じたことの無いものだった。「え?こんなところを登るの?なんで?」と疑問がたくさん巡っていた。この時にはクライミングはただ怖いものと感じることしかできなかった。現地に到着し、講習が始まった。大きな岩を目の前にするとより一層恐怖感が強まった。しかし好奇心もふつふつと湧き上がってきた。チャレンジしてみたいという思いがあった。ロープワークや確保技術を確認した後、登り始めた。本物の岩の感覚や見た目はゴツゴツしていて、登りやすいのかもしれないと感じたが、全くそのようなことはなく、一回目は登り切れずにリタイアしてしまった。何度も休憩を挟みながら最終的に頂上まで登り切ったが、疲労感が尋常ではなかった。しかし、そこで後ろを振り返ると一面に絶好の景色が広がっていた。山の頂上から見ることが出来る景色とは同じようで全く違っていたように感じた。いつまでもそこに居たくなるような感覚だった。不思議な感覚だった。登り始めるまで、登っている途中も一番の想いは「恐怖」だったが、頂上に到着したときは恐怖よりも達成感が強く残っていた。自然と笑顔になっていた。その感覚を求めることがクライミングをする理由なのかな?と感じた。危険が非常に高いアクティビティではあるが、挑戦することで得られる魅力もあるし、クライミングをすることによって自然と発生するチームワークや信頼関係の構築、自身への挑戦は教育として非常に有用なものだと感じた。今回をきっかけに今後もチャレンジしたいと強く感じた。
★「新鮮な心で・・・」 水津真委(すいすい)★
今年の比良の大自然は冬らしい冬を迎えることなく、春の支度をしているように思います。2015年9月のWEA Professional Short Course~ベイシックセッション~から早くも約半年が経とうとしています。今回のClimbingWSはコースの続編ということで始まりました。今回のフィールドも比良山系です。2度ほど足を運んだことのある岩峰でのWSでした。短い時間ではありましたが私自身、非常に学びが多かったように思います。私は、指導者として岩場のロープセッティングやリスクマネジメントを中心に学ぼうとしていました。単純に自身がセッティングをしっかりと身に付ければいつでも経験値を積める、と思ったからでした。いつも通りやる気と向上心を高く持ち、臨みました。しかし、そんなに簡単なものではありません。クライミングの技術はもちろん、知識や環境についてもまだまだ未熟な私自身がいることを思い知らされました。さらに、Wilderness環境下での応用力や対応力、判断力も経験を重ねて身に付けていきたいと思いました。そんなことを考えながらも、やはり一番に感じることは自分自身が登ってみて感じる、岩肌の気持ちよさや完登したときの景色の素晴らしさです。そこをなくして指導者としてクライミングのよさも伝えられないし、リードすることもできません。天然壁・人工壁共にまだ数え切れる程度ではありますが、登っていて楽しいと感じます。これを指導者としてどう伝えるかが重要だと思っています。技術と知識、指導力は経験を重ねるにつれてレベルアップを常に追求し、気持ちは常に初めて登った時の新鮮な心を忘れずに今後も向上心を持って進みたいと思いました。何度登っても気持ちが良いものです。
今回は、3名の受講生+林先生という少ない人数でしたが、新鮮な気持ちで学ぶことができました。林先生、るー、るてぃ、そして自然に感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。
4.インストラクターより
Welcome to climbing world!!! 林 綾子
9月のProfessional Short Course ベーシックコースの補講という形での今回のクライミングワークショップでしたが、共にコースを過ごしたメンバーが同じ比良の地に集まるということが、ちょっとした同窓会のようでした。受講生は経験がないながらもTCを準備し、すべてに意欲的ですばらしい学習環境を作ってくれました。スポーツクライミングのゲレンデとして開発されている岩場なので、厳密にはwildernessとは言えませんが、オフトレールの急登を上がり、心身共にウォーニングアップ。日本のように日常生活空間とバックカントリーエリアが近いフィールドは意識の切り替えが重要であり、なかなかしんどいアプローチに重要な意味があることを感じました。さて、実際のクライミングでは、とにかくクライミングの魅力を体で感じて欲しい、その上でリスクマネジメントや指導について考えてもらえればと実施しましたが、3人とも岩と自分に真っ向勝負を挑み、それぞれがらしさを発揮し、恐怖も達成感も、自然も、仲間も、様々なことを感じ、何よりもクライミングを楽しんだようでした。10mも登っていないのに、数百メートル登ったような高さが味わえ、日本一の琵琶湖を見下ろせるフィールドの魅力に相当後押しされました。
様々な知識やスキルは自然と関わるツールだと私は思っています。クライミングはまさにその一つで、身一つで自然の奥深さへ挑戦し、心身と自然を自分なりに統合させ、自分や自然との新たな世界に鋭く切り込む活動とでも言えるでしょうか?グレードでは表せられない独特の体験、何ともいえない魅力があります。またその体験を共有する人との関わりからも多様なものが生まれます。クライミングは、冒険教育の中でその特異性を多様に活用されてきました。エクスペディションの中でもそのストーリー展開に大きく影響します。まずは指導者が多様な自然との関わり方を身に付け、自分の感じる価値を自身の教育実践の中に取り入れ、オリジナルなwilderness educationを展開する、それがより参加者に伝わる教育になるでしょうし、wilderness educationの発展につながるのではないでしょうか?今回もクライミングの魅力や自然で遊ぶ楽しさを共有する幸せがたくさん味わえました。意欲的に取り組んでくれた参加者のみなさん、そしてすべて受け止めてくれた岩・自然に心から感謝します。また一緒に登りましょう!