ピラミッドの頂点への挑戦

コロナ禍プラス不安定な気象状況と、出かけにくい状況が続いていますね。こうなると、ますます出かけたくなるのが心情です。近年のアウトドアブームも何かに後押しされている気がしますね。1990年代後半からのキャンプブーム、2010年ころからの山ガールやファッションとしてのアウトドアグッズやウエアの普及、メディアや雑誌・SNSでの話題など、近年多様な形でアウトドアへの追い風が吹き、“アウトドアブーム”が続いています。実際に登山やスノースポーツなどの山岳環境における活動や、海や湖、河川のマリンスポーツ、身近な自然やキャンプ場を活用したハイキングやキャンプ活動など多岐にわたりアウトドアの活動を実施する人が増加しており、実施者の年代も若者から中高年、ファミリー層と多様な年代へ活動が普及しています。 アウトドアへ人々が向かう傾向は、日本に限ったことではなく、世界各国でみられ、コロナ禍といえども、いやむしろコロナ禍だからこそ、よりアウトドアに人々が向かっている傾向がみられます。人々は何を求めてアウトドアへでかけるのでしょうか?様々な理由が考えられますが、大きな理由として、Well-beingな生活への期待があるのではないでしょうか?Well-beingとは、幸福や福祉と訳されることも多いですが、身体的・精神的・社会的に良好な状態であることを意味しています。 コロナ禍の長期化による心身の健康問題は、世界共通の問題であり、この問題に対して野外活動・野外スポーツの果たす役割はますます大きくなっています。漠然とした自然環境への期待が多くの人を自然環境へ誘っていますが、具体的にどのように安全に、効果的に自然の中で活動していくか具体的な提言と実践、検証が今後の課題であると思われます。Natureに発表されたWhiteら(2019)の論文によると、イギリスでの2万人近い人を対象に実施された大規模調査の結果、性別や年齢、人種、社会的地位や居住地などの違いを超えて共通した結果として、1週間で少なくとも120分の時間を自然環境の中で過ごすことが、主観的な健康状態と主観的なWell-being両方において有意に良い結果を示していることが報告されています。 自然体験と健康の関連について探求する動きは世界中にみられ、アメリカのフローレンス・ウイリアムの出版した“Nature Fix -自然が最高の脳を作る:最新科学でわかった創造性と幸福感の高め方-”(2017)という本が、日本の森林浴やアメリカ、フィンランドなど世界中の最新研究をもとにわかりやすく説明されていることから、世界中で話題となっています。この本の中でも紹介されているTim Beatleyのネイチャーピラミッドは、健康的な食生活の指針として有名なフードピラミッドの自然バージョンとして提唱されており、そのわかりやすさや実践への取り入れやすさから、注目を浴びています。 このモデルでは、ピラミッドの底辺に日々触れ合うべき身近な自然を置いています。日常的に自然の要素と触れることで、ストレスが軽減され、集中力が高まり、疲れた心と頭が癒されると説明されています。住んでいるところが都会であっても、屋外にて自然の要素を習慣的に取り入れ、日常的に自然の要素と触れ合うことがまずは前提となります。2段目となっているのは、週に1度くらいは実際に自然環境へ足を運び、2時間程度は自然環境の中で時間を過ごし、自然を全身で感じることが重要であると述べられています。さらに3段目に上がると、実際に自然環境の中で活動を行うことで、自然の恵みを体に取り入れ、精神的な安定や充実感、免疫力の向上も期待できると説明されています。そして、ピラミッドの頂点に鎮座するのは、なかなか日常的に出かけられる場所ではないwildernessのような雄大な自然に複数日どっぷり浸かるような体験が年に1度、あるいは2年に1度は必要であると言われています。そういった場所で何日か過ごし、心に残る体験をすることは、希望や夢が明確に持てるようになる、あるいは自然への畏敬の念を持つことで、人との絆が強まり、多様な認識を持つことができるかもしれない。また、荒々しい自然との関わりから自立心の獲得や、ひどく傷ついた心が癒されるかもしれないと説明されています。Beatley(2012)は、世界各国で都会に自然的な要素を取り入れる動きがみられることや、水や緑と触れられる工夫が取り入れられるなどの工夫がみられることは望ましい変化であると述べていますが、貧困や認知や習慣といった根強い困難へ社会として取り組まなければ、根本的な解決や世界の人々の健康は訪れないと訴えています。 私たち、野外教育者が関わる部分が3段目と4段目であり、4段目はまさにWilderness体験であり、WEA指導者の出番ではありますが、ピラミッドの上2段を充実させるには、1段目、2段目のすそ野を広く広げる必要があるのでしょう。どの分野においても二極化の問題がありますが、アウトドアについても同様です。より多くの人が日常的に自然環境を取り入れ、さらに定期的により深く自然環境と関わる活動を行うライフスタイルの実践は、個人の心身の健康促進が期待されます。また、そのようなライフスタイルを多くの人が実践できる社会の形成が望まれます。コロナ禍だからこそ、より自分や他者、自然を大切に思う気持ちを意識的に活動方法に取り入れ、実践することは、より質の高いアウトドア体験が得られるだけでなく、自然や他者を大切に思う自立した個人としての成長や、健康・健全な社会の実現につながるのではないでしょうか。 今のこのアウトドアブームに乗じていかにすそ野を広げられるか、そして広げるだけでなく土台に合わせた上段を積み上げること、一人一人が自分なりな上段への展開を実現する手助けをする、今の社会により大きく充実したピラミッドを形成するには、野外教育者の活躍が大きく期待されるところではないでしょうか? WEAJ理事・びわこ成蹊スポーツ大学 林 綾子 引用文献 Beatley, T. (2012) Exploring the nature pyramid. https://www.thenatureofcities.com/2012/08/07/exploring-the-nature-pyramid/ フローレンス・ウィリアムズ:栗木さつき・森嶋マリ訳(2017)Nature Fix:自然が最高の脳を作る-最新科学でわかった創造性と幸福感の高め方-.NHK出版:東京. White, M. P., Alcock, I., Grellier, J., Wheeler, B. W., Hartig, T., Warber, S. ...

Legacies of WEAJ

歴史は常にぬりかえられ、過去の歴史は時とともに忘れされていくのが宿命です。でも、そんな歴史でも未来のために忘れてはいけいない人・できごともあります。 WEAJでは、その歴史や発展に大きく影響を及ぼした、偉人たちをいつまでも私たちの心に残し、後人たちに伝えていくことを目指し、「アウトスタンディング・アウトドアエデュケーター賞」を設け、表彰してきました。 今回は、これまで同賞を受賞した、WEAJのレガシーたちをご紹介います。このレジェンドたちのおかげで今の私たちがあるのです。 目次2013年受賞 クリス・キャッシェル2014年受賞 リッキー・ハロー2015年受賞 マーク・ワグスタッフ2016年受賞 飯田 稔2018年受賞 ケリー・マクマーハン 2013年受賞 クリスティン・キャッシェル WEAJの誕生に彼女なくしては語れません。まさに「WEAJの母」といっても過言ではない、元オクラホマ州立大学教授のクリスティン・キャッシェル、通称クリスです。 彼女と、WEAJ創設者岡村との出会いは、1998年にさかのぼります。Coalition for Education of the Outdoor(CEO)というアメリカの野外のトップリサーチャーが集う研究集会で、右も左もわからぬ当時博士課程学生だった岡村を、学会期間中終始気にかけてくれていたのが、彼女でした。 それを機に、二人は交流を深め、岡村は日本にはないWEAの洗練された指導者育成システムを知り、共にWEA Japan設立の夢を語るようになりました。 2002年には、岡村が着任した奈良教育大学のプロジェクトで、愛弟子のマーク・ワグスタッフと共に来日し、WEAのカリキュラム、LNT、野外救急法など、当時の日本には目から鱗のテクニックを披露してくれました。 そして、2003年、とうとう夢への第一歩となった、日米学生合同のWEAアウトドアリーダーコースが、WEA発祥の地、ワイオミング州グランドティトンで、彼女の指導のもと開催されました。 2004年、クリスは再び来日し、長野県戸隠にて、5日間のWEAショートコースを開催し、ここに、現WEA理事のジェイ・ポストも学生として来日し、その後WEAJを末長く支えてくれるメンバーとなりました。 WEAJ設立の夢は一旦ここで足踏みをすることなります。というのも連続3週間、2年に分けても最低連続2週間という野外実習が、日本の大学教育はおろか、民間団体でも極めて困難なことが明白だったからです。 ところが、2009年に40年間続いた18ポイントカリキュラムから、現在の6+1コンポーネントに改訂され、さらに、それぞれのコンポーネントが単位制となる、柔軟なカリキュラムモデルが誕生しました。これにより、日本の教育機関にも導入の可能性ができてきました。 2012年、WEAJ設立前夜、岡村の呼びかけにより、改めて、マークワグスタッフ、スコットジョーダンと共に、WEAカリキュラムの紹介を目的とした、WEAワークショップが、長野県東京YWCA野尻キャンプで開催されました。大学、民間、学生など約40名近くの野外指導者が集まり、改めて、アメリカの最新のWEAのティーチングメソッド、野外救急法、LNTの概念にふれ、この時のメンバーが中心となり、WEAJ設立準備委員会が発足しました。 そして、2013年6月、クリスと岡村の夢はとうとう現実のものとなったのです。 CEOでの彼女ととの出会いがなければ、日本の野外は、今もなお、WEAやLNTを文献上でした知り得なかったかもしません。それはそれで独自の進化はしたかもしれませんが、アジアの潮流からはさらに大きく立ち遅れていたことでしょう。 2014年受賞 リッキー・ハロー 彼の、経歴はとてもユニークで、私たち民間に力を与えてくれるものでした。彼はアーミー出身で、退役後、野外学校を立ち上げ、社会的信頼を得るためにWEAコースに参加したのがWEAへのコミットメントのきっかけでした。その後、民間出身でありながら、卓越したビジネススキルとリーダーシップを発揮し、WEAの会長にまで上り詰めた男でした。 2009年、WEAは、それまでの18ポイントカリキュラムから、6+1コンポーネントを移行すると同時に、これを全米の大学教育における野外指導者のナショナルスタンダードにすべく、連邦教育省の認証を受けるという大きなチャレンジに挑みました。その中心となったのが、彼とその相方スタンフォード大学のクリス・ペルチャットでした。 ところが、大きなチャレンジは、必然的に大きなチェンジングも必要となり、古くからWEAを支えてきた指導者たちは、長期遠征を切り分けるような単位制、オンラインでその成果を評価するポートフォリオシステムなどを、にわかい受け入れることができず、2009年から2013年までの6+1コンポーネントの試験運用期間は、WEAにとっても試練の時代でした。 そんな中、2012年からスタートしたWEAJ設立準備委員会として、2013年2月ノースカロライナ州ブラックマウンテンで行われたWEAカンファレンスにて、日本がWEAJの設立を目指していることを初めて彼に伝えました。 これは、これまでいっさいの国際ブランチを持たなかったWEAにとっても、前代未聞の大きな出来事でした。普通の会長であれば、来年までに考えましょうというところですが、同カンファレンス中に、契約書の雛形を作成し、2013年6月設立に向け、時代は一気に加速しました。 もし、彼が当時の会長でなければ、これほどまでスピード感を持った対応、変革へのチャレンジはすぐにはできなかったと確信しています。 その後2014年東京お台場で行われたWEAJカンファレンスに招待され、東京の民間団体の若手メンバーの会合に参加し、改めて民間の若手に夢と勇気を与えてくれのでした。 そして彼は今、ビジネスをやりながら、博士号にチャレンジしています。ビジネスとは何か、博士号とは何か、アメリカで野外のプロとして生きていくための生き様は、日本の全ての野外指導者の道標となるような道を歩んでいます。 2015年受賞 マーク・ワグスタッフ クリスの愛弟子であり、2002年奈良教育大学でのWEAワークショップ、2012年東京YWCA野尻キャンプでのWEAワークショップなど、幾度となく日本にWEAを伝える伝道師として活躍してくましたが、最大の貢献は、なんといっても2013年に、彼の勤めるラドフォード大学のあるバージニア州アパラチアンマウンテンでの日米合同のWEAアウトドアリーダーコースの開催です。 2013年2月から3月にかけ、岡村は、WEAとのWEAJ設立準備、そして、WEAアウトドアリーダーコース開催のために、約1ヶ月近く、彼の大学に滞在し、その準備と作業を行っていました。 日本でWEAを実現するためには、コースを開催することができる資格であるCertificated ...

What is WEA?

2020年2月コロナパンディミックにより、WEA史上初となったオンラインカンファレンスでしたが、蓋を開けると、参加者500名と、こちらもWEAカンファレンス史上最高の参加人数に。 その記念すべきオンラインカンファレンスの冒頭の、ニューカマーのためのシンプルでわかりやすいWEAの紹介があったので、私たちもWEAのWhat?(過去), Now What?(現在), and So What?(未来)を共有しましょう。 WEAとは、野外指導(アウトドアリーダーシップ)を専門とし、職業としての持続的な発展を目指す、学生、指導者、育成者のコミュニティーです。 単に野外指導の技術の上達や、ネットワークだけでなく、職業(プロフェッショナル)として考えているということが重要です。 野外指導者の育成や、その組織の公認基準を示し、野外指導者及び育成者の体系的な養成と証明のシステムを提供しています。 指導者に対する資質の証が資格(サーティフィケーション)、コースのプロバイダーに対する資質の証が公認(アクレディテーション)です。日本だと、まだまだ言葉の整理ができていませんが、意味は使い分けていきたいですね。 1977年の設立当初はWilderness Use Education Association という名称でした。ここからも、野外を「用いた」教育というWEAの理念がわかります。 当初は野外指導者に必要な18のスキルの固まりを示した18ポイントカリキュラムを、3週間の野外遠征で習得するというのが、アメリカのナショナルスタンダードとなりました。 そして、このカリキュラムを用いて、大学で野外を専攻する学生をトレーニングして、資格を与えるというのが、長年の役割でした。 ところが、大学の専攻の多様化や、長期遠征がやりにくくなった教育環境を踏まえ、2000年前半に、18ポイントカリキュラムを見直す動きが起こりました。 それが現在の6+1コンポーネントで、18のスキルの固まりをさらに、6つの構成要素(コンポーネント)に体系化し、「判断力」をその全てを活用するスキルとして位置付けました。つまり、判断力が+1ということです。 また、18のうち、冒険活動スキル(クライミング、パドリング、スキー)と、野外救急法の2つについては、当時すでにそれぞれの専門団体が確立していたことから、WEAのコースではなく、各自が別の団体で指導内容に応じて取得することが義務付けられました。 これにより、3週間の野外遠征を行わなくても、色々な団体、コースで必要な構成要素を習得し、総合的に6+1をカバーできたか評価する、柔軟なカリキュラムが誕生しました。 これが、WEAが日本でも導入可能となった大きな要因です。 資格を与える体系は以下の通りです。 まず、野外指導者としての業界基準(ベンチマーク)となるなのが、Certified Outdoor Leader(COL)です。この資格は、6+1を用いて、野外指導ができるという資質の証です。 一方、そのCOLを育成する資質の証が、Certified Outdoor Educator(COE)です。単に、野外指導ができるというだけでなく、指導者を育てるためにコースをデザインできて、指導者の到達段階を妥当に評価する能力が必要となります。 そして、もう一つ重要なのは、そのコースを主催する機関が、それに相応しいサービスを提供できるかといった、公認(アクレディテーション)の仕組みです。 18ポイントカリキュラムでは、単一の指導者が3週間のコースで指導者養成をすれば良かったのですが、6+1では、複数のコース、複数の指導者、異なった教育機関との連携で、一人の生徒を育てるわけですから、その全てを提供できる資質があるか審査されます。 また、近年の新し資格として、COLへのトレーニング中という位置付けで、Outdoor Leader Traning Course(OLTC)というのができました。これは、これだけ構成要素をブレイクダウンしても、まだまだCOLを満たすことができない機関、コースに対して、一部の構成要素は履修できましたというお墨付きです。今後COLへのエントリーレベルとして効果的に活用されることが期待されています。 そして、WEAのゴールは、野外指導者の業界基準(スタンダード)と資格の価値を高め、野外指導もしくは野外教育が、確立され、信頼された職業となることを目指します。

OBS、NOLS、WEA、何が違うの?

WEAを日本に導入したときに、OBSとどう違うのという質問をよく受けました。確かに、いずれも大自然の中で、遠征を用いた教育活動をしていますが、実はその役割は大きく異なります。また、日本では馴染みのないNationa Outdoor Leadership School:NOLS(ノルス)という団体もあり、OBS、NOLS、WEAは、それぞれの役割を果たし互いに協働しています。 全く異なる組織ですが、アメリカではその創設者は、実はたった一人の人物。それが、NOLS 、WEAの創設者であるポール・ペッツォです。彼は、NOLSから派生したLNTにも大きな指導力を及ぼしているので、まさにアメリカの野外教育(Wilderness Education)のレジェンドですね。 OBSは、1962年に、イギリスから初めてアメリカに伝わり、まず初めにコロラドOBSが設立しました。この時の、初めての夏の28日間のコースのリードインストラクターこそ、当時、アメリカの初の登山ガイドであり、K2のアメリカ隊に参加したり、陸軍のサバイバル訓練の教官などの経歴を重ねた、ポール・ペッツォでした。 彼は、最初の夏を終えた時、アメリカでOBSが発展するためには、山岳技術と教育技術を兼ね備えた高度な指導者が必要であることを確信し、1964年にグランドティトンのあるワイオミングで、指導者養成を目的としたワイオミングOBSを立ち上げました。 ただ、青少年教育を目的とするOBSと、指導者養成は根本の目的も手法も異なりますので、このワイオミングOBSから発展したのが、NOLSでした。 NOLSは、全米に広がり大きな成功を収めましたが、あくまで民間団体の活動であり、野外教育を大学システムを含め産業化とするためには、限界がありました。 そこで、ポールは、ウェイストイリノイ大学、インディアナ大学、ペンシルヴェニア大学の野外指導者と議論を重ね、大学で、高度な野外教育の指導者を育成する仕組みとして、立ち上げたのがWilderness Education Assocition:WEAでした。 その後、 WEAは、野外指導者として必須となる18のスキル群、18ポイントカリキュラムを開発し、これが当時の全米の野外指導者のナショナル・スタンダートとなり、大学を中心にWEAは大きな広がりを見せました。 つまり、OBSは青少年教育のための冒険学校、NOLSはその指導者を育成するための野外学校、WEAはそのカリキュラムを教育機関に課程認定するための公認機関ということです。 現在、我が国には、優れた教育理念をもった野外学校がたくさんありますが、業界として考えたときに、そこに、新たな人材が入っていこないと、その業界はいつかは消滅します。また、野外指導者養成を行っている大学もいくつかありますが、そこでのトレーニングが必ずしも、現場の自然学校が求めているものとリンクしていないと、その大学教育も輩出先がないので、いずれは衰退します。そこで、アカデミと現場をつなぐ「共通言語」として、今こそ、日本の野外教育にWEAが必要であると確信しています。 6月19日に新型コロナのため、延期になってしまった第9回WEAJカンファレンスのウォームアップイベントとして、開催されたオンライイベントで、冒険教育の変遷の解説の中で、ちょうどこの話題に触れているので参考にしてください。 第9回WEAJカンファレンスのテーマは「今こそ冒険教育」です。アメリカでは1970年代に、野外教育は、冒険教育と環境教育に専門分化し、それぞれの専門性を磨き、叡智を集めるプラットフォームができました。一方日本では、1990年代に、日本環境教育フォーラム、日本環境教育学会が設立したのに対し、冒険教育に特化した専門家組織は今でもできていいません。 日本で、冒険教育に関わる団体が数多く存在する中、お互いの情報を共有し合うことなく、バラバラに動いているのはとてももったいない状況です。 「今こそ冒険教育」というテーマは、単にOBS活動が古くから行われてきた山口県開催というだけではなく、これからの日本の野外教育が、産業として舵を切るための大切なターニングポイントにしなければならないタイミングかもしれません。

wilderness ウィルダネス Wilderness ???

 WEAJブログをしばらく担当することとなりました。理事の林綾子です。なんだかんだとWEAと関わり続けて20年が経とうとしています。時代も変わり、やり方は変化しても、価値を共有し、発展させ、社会に活かしていくプロフェッショナルの取り組みこそがその業界を発展させると信じています。このブログを通してWEAやWEAJに関するプロフェッショナルな価値の一端を発信し、読者のみなさんの理解や実践に少しでも役に立てば嬉しいです。  さて、最初のトピックとしてはやっぱりウィルダネスを選びました。日本語でどう説明する?いつも悩む言葉です。できれば英語で使いたい。Wilde-er-ness, ワイルドな性質であり、そういった場、状態、精神性。この言葉、日本でも使い続けていますが、どうもまだまだ伝わりません。wildernessの意味・価値を浸透させたいですね。  上の写真の景観は、私が初めて3週間のwilderness遠征をアメリカのユタ州南部にて実施した時のものですが、20年前の私には衝撃でした。意味がわからない!雪山と赤土の砂漠!なんで一緒に存在するの?自分のそれまでの自然観にはフィットせず、認識が崩された感じでした。この近くのキャニオンで3日間ソロもしましたが、自然に抱かれていると感じられる日本の森と違い、自分はこの地には属さない、異質で排除されようとしていると感じました。しっくりこないまま継続していると、10日程度過ぎたころ、徐々に大きな自然のリズムに自分の体が同調していくような感覚に入り込み、wildernessに自分が溶け込んだような心地よい感覚、今も忘れることはできません。それ以来wildernessというほどでなくても、自然の中にその要素を感じ、感覚に入っていき、自分自身に還っていき、確かめるものになっています。  衝撃のwilderness体験後、私はwildernessって何なんだろうと探り、いろんな人に議論をふっかけました。どうやら、アメリカ人にとってはとっても大事なものらしいです。Wildernessについては、詳しく説明するときりがないのですが、その特性は、 ①undeveloped(開発されていない)、②Natural(生来のまま)、③untrammeled(何からも束縛されていない)、④opportunities for solitude(一人になれる場所)と整理されているようです。  フロンティアスピリッツが建国の精神であるアメリカ人にとって、手つかずのwildernessはその精神が反映された聖域のような位置づけだったらしく、1964年にWilderness Act(ウィルダネス法)という法律を作り、手付かずのまま残そうとしています。写真のように、ここから先はWildernessと区切られ、地図上でもしっかり線が引かれ、そこから先はどんな事故があっても、ヘリコプターやいかなる動力が入っていくことも原則許されません。何があろうと、自力で対応する場であることに価値が置かれています。今日もアメリカの土地の5%は法律でそのエリアを守っています。そういった法律で制定された場所をWilderness(大文字のW)そして、法律で定められているわけではないがそういう性質を持った土地や性質としてのものをwilderness(小文字のw)と使い分けているようです。どちらにしても動力や人工物に頼らず、自然の摂理の中で人間が身一つで知恵とスキルを駆使して新たなものを切り開く、可能性を開花させる場として捉えられているようです。  こういったwildernessのような地での冒険を成人儀式としている部族は世界中あちこちの地域に見られ、ネイティブアメリカンの儀式、日本の白山登山など、自然の中での挑戦が人間の本来持っている可能性を引き出し、磨き上げるという共通の認識はあるようです。wilderness educationの本質ですね。あるがままの自然のフィールドを人や自然の原点とし、いろんな可能性に向かって踏み出していく、その中で現れる人間性をExpedition Behaviorとして見つめ、磨き、リスクのある状況での判断力や決断力、リーダーシップを磨く、まさにWEAですね。  みなさんは、ウィルダネスを何と説明しますか?みなさんにとってその価値は?その価値を指導者としてどのように活用しますか?そんな議論をじっくりしてみたいですね。 ↑wildernessへの疑問や興味がわきすぎて、2002年に仲間とのディスカッションから発展し、初めての英語論文を出しました。当時はほとんど引用されなかった論文が、なぜかコロナ禍となってから、世界中、他分野からの引用が今増えています。先の見えない今の時代、wildernessの価値に改めて注目が集まっているように感じます。興味のある方どうぞ。

We have standards

待望のWEAJブログ始まりました。これから世界中の最新の野外教育情報をお届けしますのでご期待ください。 “We have standards(私たちにはスタンダードがあります)”とは、WEAのキャッチフレーズです。何か地味な感じもしますが、このスタンダードこそ、北米における唯一無二の成果であり、今なお全米の指導者から信頼されている理由でもあります。 スタンダードとは、業界基準のことで、これから野外指導者を目指すものが、職業人として最低限身につけておかなければならな知識とスキルを意味します。 現在の6+1と言われるカリキュラムは、これまでの野外指導育成に関する科学的な知見をもとに開発されています。そのため、北米だけではなく、全世界の野外指導者養成に汎用性があり、この基準の上に、各国や各団体の特性を加えていくことができます。 6+1とは 1)野外生活技術2)遠征計画3)リーダーシップ4)リスクマネジメント5)環境スキル6)教育 の6本柱と その全てのスキルを活用するために必要な最重要なスキルである +判断力 から構成されています。 また、野外指導者になるための外部資格として 1)冒険活動(クライミング、パドリング、スキーなど)に必要な指導資格2)野外救急資格 が前提条件として義務付けられています。 WEAスタンダードは、単に理論を理解するだけはなく、リーダーシップ、指導力、判断力などのメタスキルを、コース中の現実的な体験を通じて、確かな力として身につけることができる、卓越したカリキュラムです。 さあ、グローバルスタンダードの野外指導者カリキュラムを体感し、いっしょにい野外指導者の道を歩みましょう。