wilderness ウィルダネス Wilderness ???
WEAJブログをしばらく担当することとなりました。理事の林綾子です。なんだかんだとWEAと関わり続けて20年が経とうとしています。時代も変わり、やり方は変化しても、価値を共有し、発展させ、社会に活かしていくプロフェッショナルの取り組みこそがその業界を発展させると信じています。このブログを通してWEAやWEAJに関するプロフェッショナルな価値の一端を発信し、読者のみなさんの理解や実践に少しでも役に立てば嬉しいです。 さて、最初のトピックとしてはやっぱりウィルダネスを選びました。日本語でどう説明する?いつも悩む言葉です。できれば英語で使いたい。Wilde-er-ness, ワイルドな性質であり、そういった場、状態、精神性。この言葉、日本でも使い続けていますが、どうもまだまだ伝わりません。wildernessの意味・価値を浸透させたいですね。 上の写真の景観は、私が初めて3週間のwilderness遠征をアメリカのユタ州南部にて実施した時のものですが、20年前の私には衝撃でした。意味がわからない!雪山と赤土の砂漠!なんで一緒に存在するの?自分のそれまでの自然観にはフィットせず、認識が崩された感じでした。この近くのキャニオンで3日間ソロもしましたが、自然に抱かれていると感じられる日本の森と違い、自分はこの地には属さない、異質で排除されようとしていると感じました。しっくりこないまま継続していると、10日程度過ぎたころ、徐々に大きな自然のリズムに自分の体が同調していくような感覚に入り込み、wildernessに自分が溶け込んだような心地よい感覚、今も忘れることはできません。それ以来wildernessというほどでなくても、自然の中にその要素を感じ、感覚に入っていき、自分自身に還っていき、確かめるものになっています。 衝撃のwilderness体験後、私はwildernessって何なんだろうと探り、いろんな人に議論をふっかけました。どうやら、アメリカ人にとってはとっても大事なものらしいです。Wildernessについては、詳しく説明するときりがないのですが、その特性は、 ①undeveloped(開発されていない)、②Natural(生来のまま)、③untrammeled(何からも束縛されていない)、④opportunities for solitude(一人になれる場所)と整理されているようです。 フロンティアスピリッツが建国の精神であるアメリカ人にとって、手つかずのwildernessはその精神が反映された聖域のような位置づけだったらしく、1964年にWilderness Act(ウィルダネス法)という法律を作り、手付かずのまま残そうとしています。写真のように、ここから先はWildernessと区切られ、地図上でもしっかり線が引かれ、そこから先はどんな事故があっても、ヘリコプターやいかなる動力が入っていくことも原則許されません。何があろうと、自力で対応する場であることに価値が置かれています。今日もアメリカの土地の5%は法律でそのエリアを守っています。そういった法律で制定された場所をWilderness(大文字のW)そして、法律で定められているわけではないがそういう性質を持った土地や性質としてのものをwilderness(小文字のw)と使い分けているようです。どちらにしても動力や人工物に頼らず、自然の摂理の中で人間が身一つで知恵とスキルを駆使して新たなものを切り開く、可能性を開花させる場として捉えられているようです。 こういったwildernessのような地での冒険を成人儀式としている部族は世界中あちこちの地域に見られ、ネイティブアメリカンの儀式、日本の白山登山など、自然の中での挑戦が人間の本来持っている可能性を引き出し、磨き上げるという共通の認識はあるようです。wilderness educationの本質ですね。あるがままの自然のフィールドを人や自然の原点とし、いろんな可能性に向かって踏み出していく、その中で現れる人間性をExpedition Behaviorとして見つめ、磨き、リスクのある状況での判断力や決断力、リーダーシップを磨く、まさにWEAですね。 みなさんは、ウィルダネスを何と説明しますか?みなさんにとってその価値は?その価値を指導者としてどのように活用しますか?そんな議論をじっくりしてみたいですね。 ↑wildernessへの疑問や興味がわきすぎて、2002年に仲間とのディスカッションから発展し、初めての英語論文を出しました。当時はほとんど引用されなかった論文が、なぜかコロナ禍となってから、世界中、他分野からの引用が今増えています。先の見えない今の時代、wildernessの価値に改めて注目が集まっているように感じます。興味のある方どうぞ。