ラスベガスでの勝ち目を見極めろ! PP的リスクマネジメント
前回に引き続き、PP語録ですが、今回は安全に関する言葉を紹介します。ポールは、いろんなエピソードからなかなか無茶苦茶な人柄だったことがうかがえますが、安全に関してはかなり慎重派だったようにうかがえます。
- No matter how the sky is blue, don’t ask me why, put the fly on.「どれだけ空が青かろうが、理由なんかきくな、テントにフライをかけておけ。」
ポールがWEAコースを行っていたワイオミング州や、アウトワードバウンドのコースを行っていたコロラドは、夏は非常に晴れの日の多く安定した気候の土地ですが、あの土地でこの言葉というのは、非常に慎重だなと思います。「天気を予測できるのは誰?バカだけだ。」という言葉もよく言ったそうですが、「ある程度天気を予測することは大事だが、完全に予測できるものではない。常に最悪の状態に備えておけば、50年に一度の嵐が来ても生き延びられる」と説明していたそうです。彼のリスクマネジメント哲学が見えますね。
- If they say they’ve climbed the Matterhorn, take an extra rope. 「もし一緒に山に登る人が、マッターホルンも登ったことがあると言ったら、予備のロープを持っていけ」
これも有名な言葉なのですが、一緒に登る人が自分自身を正確にアセスメントできている人かどうか、そうでなければパーティー全体が危ない目にあうことになるぞという警告です。おそらく過去によほど痛い目に遭い、その教訓なのでしょうね。リスクの高い活動をするならなおさら、人にも装備にもそれなりな備えをということでしょうか。
- “Let’s do a Nick the Greek”–Look at the Las Vegas odds.「ギャンブル王がすることをしよう、ラスベガスでの勝ち目を見極めろ」
Nick the Greekというのは、ギャンブル王のことであり、「ギャンブル王がすることをしよう、ラスベガスでの勝ち目を見極めろ」という意味になりますが、この言葉は、安全を見極める時に使われたようです。ただ賭け事として一か八かを決めるのではなく、確実な勝ち勝負をするために、具体的にどれだけの勝ち目があるか、どのくらいのリスクがあるのか、どうすることが現状でより望ましい決断か考え、決断することを意図して使われたそうです。ルールを決定するのではなく、状況に応じてその場でより安全な判断すること重要性を説き、コースの中で、たびたび“ギャンブル王は何と言ってる?”と問いかけ、思考と判断のトレーニングを繰り返したようです。誤解を受けそうな言葉ではありますが。
- サバイバルな状態になったらどうする?
この質問をラジオ番組に出演した時にアナウンサーから受けたそうです。ポールの答えは”I don’t know.”「知りません」の一言。アナウンサーが、「ええ~と、あなたは軍のサバイバルインストラクターを務め、ヒマラヤ登山も行い、冒険教育を行っているポール・ペッツォルですよね?」と何か聞き出そうとしても、「はい、でも知りません」の一点張りだったようです。アナウンサーはそれ以上会話が進まないことに困ってしまったそうですが、ポールのサバイバルに対しての考えは、”Avoid it!”「避けろ」、だったそうです。サバイバルな状態(何かしらリスクの高い状況・状態)に陥らないようにすべきということだそうです。そうならないように準備、判断、対応することこそが一番のサバイバルスキルであり、リスクマネジメントであると説明したそうです。
- Cigarette theory「タバコ理論」
こちらも有名ですが、「緊急事態に陥ったら、まずは一服」という意味です。緊急事態とまでいかなくても、大事な決断・行動を行わなければならない時は、一服するくらいの余裕をもって、まずは落ち着き、しっかり深呼吸もして、水でも飲んで、ちゃんと考えて判断し、どう行動するかも落ち着いて計画したうえで実行に移しなさいという教えです。ついつい焦って、とりあえず目の前の対応に走る、そうなると周りやその後のこと、あんまり見えていないですよね、それでドツボにはまったり、より悪循環にはまりかねない。今では、酸素や水分が10%でも不足すると、思考力、判断力が低下するとのデータもありますが、そんなデータがない時期から核心を突く言葉です。
最年少でグランドティトンを登頂した時も、カウボーイブーツとつなぎ姿で、散々な目にあったという言い伝えもありますし、いろいろと経験から学んだリスクマネジメント哲学なのでしょうが、核心は、リスクへのアセスメント(メンバー・状況・装備)を十分に行ったうえで、最悪の状況でも対応できるように心身ともに準備をしておく、そしてその状況において適切と思われる判断を下すということでしょうか? Right(正しい)あるいは、Wrong(間違っている)という判断はない、ということもよく言っていたそうです。そうではなく、Most appropriate decision (最も適している決断)を下すために判断するということだそうです。非常に腑に落ちる説明です。これらの言葉、是非自らに、また参加者たちに問いかけてみてください。