ユーモアと弱さの認識 -PP語録Leadership編

WEAの創始者Paul Petzoldtの語録シリーズで長々とひっぱっていますが、最終回Leadershipに関するquoteで締めたいと思います。アウトドアリーダーとしての責任・役割に関するものや、リーダー=望ましい人間性としてのとらえ方がみられ、そこからポールのwilderness education に対する思いが見えてきます。

まずはアウトドアリーダーとしての責任・役割に関するものから。

“outdoor leadership is the ability to plan and conduct safe, enjoyable expeditions while conserving the environment. (l984)” ”アウトドアリーダーシップとは、環境保全に努めながら安全で楽しい遠征を計画し、実行する能力である.” こちらはいわゆるOutdoor leadershipの定義のような言葉ですが端的に説明してあり、よく引用される言葉です。“環境保全に努めながら、”とあえて付け加えてあるところがwildernessへの強い思いを持っていたポールならではですね。

また、wildernessという環境へ人を連れていくということの責任の重さを表す言葉も、多く言い伝えられています。”Don’t take someone into the backcountry unless you are willing to face death.” “死に直面する覚悟がない限り、だれかをバックカントリーには連れて行くな。” なかなかインパクトのある言い方ですが、インストラクターの意識・覚悟に訴える意図で使われていたと思われます。また、解釈は様々にされているようですが、古い詩の引用として、“Now a promise made is a debt unpaid”. という言葉もコースが始まるときに言われたそうです。直訳すると、”今交わされた約束は、未返済の債務となる”という意味であり、一旦生徒を受け入れたら、絶対にその生徒を成長させる、十分にスキルや知識を付けさせる責任を背負うということを意味しているようで、そのために、指導者としてグループに対して深くコミットしなければならないと私のインストラクターは説明してくれました。借りたものはそっくりそのまま返さないといけないという、安全面を意図しているという解釈もありますが、face deathの引用と共に、生徒を受け入れるという責任の意味を問うているのでしょう。

指導者としての生徒との関わりについては、3つのルールとして言い伝えられています。 ”I have three rules for leaders in the outdoors: you have to know where the people you are leading are coming from, you have to know what you want to do with them, and you have to love them.” “アウトドアでのリーダーには3つのルールがある。1つ目は、指導している人々がどこから来たのか(どういったバックグラウンドの人か)知ることであり、2つ目は、彼らと一緒に指導者として何をしたいのかという明確な目的を認識していること、そして3つ目は彼らを愛することである”、と訳すことができ、参加者にしっかりと目を向けたうえでの、指導者としての目的設定や関係構築を重要視していたことがうかがえます。

参加者に対しても、指導者養成課程ですから、主体的に学ぶ姿勢を強調していたようです。”A challenge is to lead instead of being led, to participate instead of watching, and to act instead of waiting with idle hands.” “挑戦とは、誰かについていくのではなく、自分が人を導くこと、ただ見ているのではなく自分が直接参加すること、そして手をこまねいて待つのではなく、実際に行動すること” と説明していたようです。集団の中にいると、まあ自分がしなくてもいいかとなりがちですが、主体的に行動を起こすことを具体的に示してあり、状況が目に浮かぶ内容で、参加者にも伝わりやすい表現ですね。

また、リーダーとして最も大切な資質は、“selflessness”(無私無欲)と毎回必ず説いたそうです。Selfish(利己的)であることはもっとも批判されたようですが、日本語的な意味でとにかく人のために、自己犠牲を厭わず、という意味ではない印象を持っています。Expedition Behaviorや教育・環境・安全に対する考え方からも、個々や集団としての成長や安全のため、自然を敬う気持ちから、集団や環境にとってその時に大切なことを、自分の欲求よりも優先する、そのために自己を活かすというように理解しています。個人主義の欧米社会だからこそ、しかも非常に強い個性を持つPPの言葉としてインパクトがあったのだと思います。

そして、私が最もPPらしさを感じるquoteです。”A sense of humor and the ability to laugh at oneself and recognize one’s own weakness is a desirable quality of leadership.” “ユーモアのセンスと、自分自身を笑い、自分の弱さを認めることができる能力は望ましいリーダーシップの資質である”と訳すことがきます。以前教育quoteのところでも紹介した、“know what you know and know what you don’t know.” “自分が何を理解しているのか、何を理解していないのかを理解しなさい。”にも通じるところですが、自分を知り、良さも悪さも受け入れ、認めることが成長の原点と捉えているようです。また、だからと言ってがちがちになるのではなく、自分の弱点についても客観的に見て笑い飛ばせるような余裕やユーモアのセンスを持っていることが、より自分の良さを活かすことができるということでしょうか。wildernessでの悪天候によるスタック、危機的な状況、寒さ、疲労、不快感、空腹、人間関係のもつれ、グループの雰囲気が最悪の時など、ストレスフルでどうしようもない時、そんなときのちょっとしたユーモアにどれだけ救われるか、身をもって感じたことのある人、多いのではないでしょうか?彼の様々なエピソードからは、とにかくその時その時の状況を楽しみながらも軸はずれないというようなスタイルが見えてきます。

コース中のPPの貴重な写真 By Dr. Maurice Phipps

最後に、1981年のティトンでのプロフェッショナルコースの最終日に参加者に伝えたという、“リーダーが知るべきこと”リストです。私が指導者資格を取得するためにWEAのコースでアシスタントをさせてもらったインストラクターのMaurice Phipps先生(当時Western Carolina University)は、ポールと多くのコースを一緒に指導されており、コースマニュアルに以下のリストを載せておられましたので、引用させてもらいます。

  1. Accept leadership within your ability. 自分の能力の範囲内でリーダーシップを受け入れなさい。
  2. Accept leadership within your experience. 自分の経験の範囲内でリーダーシップを受け入れなさい。
  3. Teach only those things that you have experienced. 自分が経験したことのみ教えなさい。
  4. Realize that whatever you are teaching is not necessarily the ultimate. There are probably better ways to teach some things. Be flexible. 自分が教えていることは必ずしも究極のものではないと認識しておきなさい。もっといい方法はきっとあるはず。柔軟でありなさい。
  5. Don’t take out individuals that won’t fit in the group. そのグループに適していない人を一緒に連れて行ってはいけない。
  6. Don’t accept the leadership of others’ planning unless it is pragmatic. 他人の計画したリーダーシップは、よほど実際的なものでない限り、受け入れるな。 
  7. Make it known and accepted that you are the leader. 自分がリーダーであることが周知され、受け入れられるようにしなさい。
  8. You can delegate tasks and leadership, but not the final responsibility. その時の課題や、リーダーシップを他人に任せることはできるが、最終的な責任は人任せにはできない。
  9. Follow rules (eg. NP, NF) ルールには従いなさい(国立公園・国有林使用に関するルールなど)
  10. Differentiate between outdoor skills and the ability to lead. 野外活動スキルと、リーダーシップの能力を区別しなさい。
  11. Expertise in one thing does not mean expertise in another. あることに熟練しているからといって、他のことにも熟練しているわけではない。
  12. Know how to match people and the environment. 連れていく人々と、そこの環境をどのように適合させるか知っておかなければならない。
  13. Select appropriate equipment and clothing. 適切な装備や服装を選択しなさい。
  14. Have the right thing in the right amounts at the right place at the right time. 適切なことを、適切な場所・タイミングで、適切な程度行いなさい。
  15. Do NOT selfish. 自分勝手になるな。
  16. Know your limitations. (Know what you know and know what you don’t know) 自分の限界を知りなさい(自分が何を知っていて、何を知らないか認識しなさい)。

5週間カリキュラムを学び、指導を練習し、評価を受け、コースの最後に、認定証と共にこれらの言葉をもらうことを想像すると、より指導者としての自覚を感じ、身が引き締まる感じがしますね。 質の高い指導者を育てることが、体験の質の保証と安全の確保、そしてwildernessの保全につながるという信念が伝わってきます。

参考文献:

Wagstaff, M., & Cashel, C. (2002). Paul Petzoldt’s Perspective: The Final 20 Years. Journal of Experiential Education, 24(3), 160-165.

林 綾子(WEAJ理事・びわこ成蹊スポーツ大学)