牛のように反芻を・・・PP語録 judgment編

PP語録第3弾、今回は「判断」-judgment-です。WEAといえば、judgmentとリーダーシップと言われるほどのWEAらしさを象徴するものです。Judgmentと意思決定(decision-making)は多くの場合同時に行われるものであり、状況に適した効果的な意思決定を行うための判断力の育成をWEAカリキュラムは重視しています。今回はこの判断と意思決定に関するPP語録を紹介します。多くの言葉が、ネイティブアメリカンの言葉や生活様式、自然に関するたとえが多いことが特徴です。遠征中の状況には非常にしっくりくるのでしょうね。

  • White man fire

直訳すると、“白人の火“となりますが、不必要に大きなボンファイヤーという意味だったようです。ボンファイヤーとは、もともと教会の行事が起源でしたが、キャンプなどで初日の夜など、火を焚いてそのまわりに人々が集まり、交流・親睦を図るものとして定着しています。その火はみんなが目印となり、集まってくるようにと大きくて威勢のいいものが作られますが、そんな火はwildernessでの遠征中には必要ありません。何も考えず、ただ大きな火を燃やすのではなく、食事作りや、憩いなどどのくらいに大きさの火が必要か、またその場に適した火のサイズはどの程度か考え、判断し、「適切な」火の使用をするようにという教えだったようです。そのためポールは、”white man fire”を見つけると、即鍋ごとひっくり返して消したそうです。また、食べ方についても、”Eat like Indians“という言葉を使い、ネイティブアメリカンのように、食べ物があるときに、あるものをありがたく食べなさいと教えたようです。シンプルな教えですが、参加者のほとんどが白人であり、白人であることに優越感を持っている人々に対して、インパクトのある言葉であったと想像できます。そういった固定観念を覆し、ただ当然に物事を捉えるのではなく、状況に応じて考え、適切に判断するよう説いているのでしょう。

  • Chew the cud / Have a cow-like nature

直訳すると、”反芻しなさいー牛のような性質を持って”となります。遠征では、時に感情的になったり、人の性格が衝突したりという対立がおこることがありますが、人のコメントや態度に即反応するのではなく、一旦飲み込み、その状況や意図、背景を考え理解してから判断し、対応するようにと勧めたそうです。そうすると、ただ感情でぶつかるのではなく、より建設的なフィードバックをすることができるかもしれないし、そういったスキルを向上するきっかけとなる。また、争ってもしかたないこと(宗教や信念、政治など)については、わざわざ遠征中に対立しても仕方ない。牛のようにゆったりかまえ、リラックスして、いちいち興奮したり小さなことに振り回されたりせず、自分を見失わないように。そういった姿勢が遠征の健全でよい生活環境を作り、よりよい判断を行うベースとなると説いたそうです。また、cow theory (牛理論?)といって、なかなかメンバーが動き出さない時、大声を出してグループを統制しようとするより、ただ黙ってゆっくり歩きだすと、メンバー全員が自然にゆっくりついてくる、という理論も習いました。どうやら遠征行動は牛に倣うところが多くありそうです。

  • Me no lost, tepee lost. Meet at the oak tree.

「自分が迷ったんじゃないよ、ティピーが迷ったんだ。」という迷った時の言い訳に使われたそうです。ちょっと親近感が湧きますが、迷ったときは、見つけるために、判断の基準となる確かな手がかりを見つけなさいという意図が含まれていたようです。また、Meet at the oak treeは、「ナラの木のところで会おう」なんていういい加減な計画で、ちゃんとたどり着けるわけがない、迷って当然。信頼できる根拠・手がかりを基に判断し、計画を立て、その計画を明確に伝え、全員が理解してようやく全員が迷わずに目的地へたどり着けると説明したそうです。

  • Must decisions

リーダーとしての判断力・意思決定を磨くために、遠征中に様々な状況において思考のトレーニングとして設定していた項目があったようです。それをMust decision(意思決定必須項目)として、日々参加者一人一人に考えさせたようです。その都度設定されたようですが、代表的なものとして、日々の活動の中で必ず下さなければならない判断、「この活動の中に潜む危険性は?」、「この環境の中にいる人たちが活動をしているときどのような事故が起こりうるか?」、「そのような事故が起こる可能性を低くするために何を自分はしなければならないか」、「装備にどのような被害が起こりうるか、そのために何をすべきか?」、「EBについての問題やEBを乱すかもしれないどんなことが起こりうるか?」、「どのような判断を下す必要があるか?」などの項目があったようです。気象も、メンバーも、装備も様々なことが日々起こる遠征中だからこそ、同じ内容を状況に応じて判断し続け、お互いディスカッションするトレーニングは非常に有効です。

  • This is a Masai Chief decision

これもネイティブアメリカンに絡んだ言葉ですが、Masai族という非常に力を持った部族の首長の決断というものは絶対的なものであり、議論の余地のない決定事項だということである。リーダーシップは人にゆだねられるが、責任はゆだねられない。リーダーとして、絶対的な最終責任は背負い、そのためには、非常事態など安全に関わる状況においては、グループに議論の余地のない決定をすることもある。そのためにも、日ごろから判断を磨いておかなければいけないという意図が含まれていたそうです。

WEAの資格認定(certification)は、個人のスキルレベルを保証しているのではなく、その人がウィルダネス環境で、実際の人々と共に実体験をして基準化されたカリキュラムを実際に遂行したことを保証するものと言われています。資格取得者は、仲間や指導者によって評価され、基準化されたレベルのスキルを持っていると“判断された”ことを証明している。また、ポールは、最終的には直感的に、その人に自分の子どもをウイルダネスで預けられるか?見た目のスキルの評価だけで判断するのではなく、心の声に耳を傾け、安心して自分の子どもを任せられるか、それだけ信頼できるかどうかを認定の判断基準としたと言われています。WEAの資格認定はjudgmentそのものであり、カリキュラム一つ一つがjudgmentを磨くための知識やスキルの習得とその応用の連続と言えます。

林 綾子(WEAJ理事・びわこ成蹊スポーツ大学)