OBS、NOLS、WEA、何が違うの?

WEAを日本に導入したときに、OBSとどう違うのという質問をよく受けました。確かに、いずれも大自然の中で、遠征を用いた教育活動をしていますが、実はその役割は大きく異なります。また、日本では馴染みのないNationa Outdoor Leadership School:NOLS(ノルス)という団体もあり、OBS、NOLS、WEAは、それぞれの役割を果たし互いに協働しています。

全く異なる組織ですが、アメリカではその創設者は、実はたった一人の人物。それが、NOLS 、WEAの創設者であるポール・ペッツォです。彼は、NOLSから派生したLNTにも大きな指導力を及ぼしているので、まさにアメリカの野外教育(Wilderness Education)のレジェンドですね。

OBSは、1962年に、イギリスから初めてアメリカに伝わり、まず初めにコロラドOBSが設立しました。この時の、初めての夏の28日間のコースのリードインストラクターこそ、当時、アメリカの初の登山ガイドであり、K2のアメリカ隊に参加したり、陸軍のサバイバル訓練の教官などの経歴を重ねた、ポール・ペッツォでした。

彼は、最初の夏を終えた時、アメリカでOBSが発展するためには、山岳技術と教育技術を兼ね備えた高度な指導者が必要であることを確信し、1964年にグランドティトンのあるワイオミングで、指導者養成を目的としたワイオミングOBSを立ち上げました。

ただ、青少年教育を目的とするOBSと、指導者養成は根本の目的も手法も異なりますので、このワイオミングOBSから発展したのが、NOLSでした。

NOLSは、全米に広がり大きな成功を収めましたが、あくまで民間団体の活動であり、野外教育を大学システムを含め産業化とするためには、限界がありました。

そこで、ポールは、ウェイストイリノイ大学、インディアナ大学、ペンシルヴェニア大学の野外指導者と議論を重ね、大学で、高度な野外教育の指導者を育成する仕組みとして、立ち上げたのがWilderness Education Assocition:WEAでした。

その後、 WEAは、野外指導者として必須となる18のスキル群、18ポイントカリキュラムを開発し、これが当時の全米の野外指導者のナショナル・スタンダートとなり、大学を中心にWEAは大きな広がりを見せました。

つまり、OBSは青少年教育のための冒険学校、NOLSはその指導者を育成するための野外学校、WEAはそのカリキュラムを教育機関に課程認定するための公認機関ということです。

現在、我が国には、優れた教育理念をもった野外学校がたくさんありますが、業界として考えたときに、そこに、新たな人材が入っていこないと、その業界はいつかは消滅します。また、野外指導者養成を行っている大学もいくつかありますが、そこでのトレーニングが必ずしも、現場の自然学校が求めているものとリンクしていないと、その大学教育も輩出先がないので、いずれは衰退します。そこで、アカデミと現場をつなぐ「共通言語」として、今こそ、日本の野外教育にWEAが必要であると確信しています。

6月19日に新型コロナのため、延期になってしまった第9回WEAJカンファレンスのウォームアップイベントとして、開催されたオンライイベントで、冒険教育の変遷の解説の中で、ちょうどこの話題に触れているので参考にしてください。

第9回WEAJカンファレンスのテーマは「今こそ冒険教育」です。アメリカでは1970年代に、野外教育は、冒険教育と環境教育に専門分化し、それぞれの専門性を磨き、叡智を集めるプラットフォームができました。一方日本では、1990年代に、日本環境教育フォーラム、日本環境教育学会が設立したのに対し、冒険教育に特化した専門家組織は今でもできていいません。

日本で、冒険教育に関わる団体が数多く存在する中、お互いの情報を共有し合うことなく、バラバラに動いているのはとてももったいない状況です。

「今こそ冒険教育」というテーマは、単にOBS活動が古くから行われてきた山口県開催というだけではなく、これからの日本の野外教育が、産業として舵を切るための大切なターニングポイントにしなければならないタイミングかもしれません。