2017WEA Outdoor Leader Nara Course Report

2017年のWEAコースが日本のウィルダネス教育の発祥の地奈良県大峰山を舞台に9月16日から27日の12日間にわたり開催されました。ベースキャンプとなった旧上北山小学校を管理する上北山村教育委員会の皆さん、地域でボランティア活動を行う孫の手会の皆さん、温かく迎えていただき心から感謝いたします。また、後援という形で後押ししてくださった大台ヶ原・大峯山・大杉谷ユネスコエコパーク協議会の方々、これらの素敵な方々と繋いでくださった奈良教育大学の先生方にお礼申し上げます。そして、我々を深い懐で受け止めてくれた大峰・大台の自然よ、ありがとう。


参加者所感


阪田晃一(サカタさん)
この度コースに参加し、当初の目的であった野外生活技術について、多くを学ぶことができた。遠征に用いるこれらの技術をこれからも磨き、自身の組織キャンプの文脈で生かしていけるようにしたいと思っている。また今回は、これまでWEAカリキュラムの片鱗に触れる機会が何度かあったが、改めてカリキュラムの完成度の高さと汎用性、そして何より教育的価値の高さを認識する機会となった。常に実践から学ぶスタイルは、改めてその教育効果の高さを実感した。今後の活動に生かして行くとともに、何らかの形でWEAJにも貢献していきたいと思っている。今回フィールドとなった大峰山系と西大台ケ原は自然の恵みに満ちていて、美しかった。沢を流れる水や瑞瑞しい森、時に険しい山々に触れ、もっと多くの人にこんな自然に触れて欲しいと思うようになった。また特に大峰山は、古来より山岳宗教発祥の地として、人と自然が密接に関係している場所であった。長い道のりを歩きながら、自然の中を歩くという行為を通して、高い精神性に達すための修験という伝統を感じることができた。最後に、ベースキャンプとして宿泊した旧上北山小学校は、美しい自然に囲まれた気持ちの良い小学校だった。このような自然を守り、また解放してくださる村の方々に心から感謝したい。


小林秀平(しゅうちゃん)
今回のWEAJ奈良コースでは、上北山小学校をベースとしてロングエクスペディションを初めて経験しました。上北村山の雄大な自然は、私たちに最高の体験と学びを与えてくれました。また、住人の方々の人柄は優しく、おおらかで、遠征に向かう時も帰ってきた時も、気持ちの良い挨拶を届けてくださり、そのたび私は元気を分けていただいていました。今回の研修では、野外の教育活動において必要なことを多く学ばせて頂きました。自分にとって一番学びだったことは、チーム内でのリーダーシップのとり方についてです。日頃、私はイニシアティブをとってチームを動かす経験はあまりありません。しかし研修ではリーダーの役割を担うチャンスが各メンバーにありました。他のメンバーのリーダーシップのとり方を、一メンバーとして体験し、自分にチャンスが回ってきたときに自分なりのリーダーシップをとる。更にその前後でリーダーシップの理論を学ぶ。理論と実践を結びつけることで、日頃リーダーシップをとる機会が少ない私でも、リーダーシップについて自信を得て帰ることができました。また機会を作って上北山村へ行きたいと思います。


市川雄一(せいちゃん)
2017WEAアウトドアリーダー奈良コース(アドバンスコース,9/21-27)に参加した市川です。私が今回のコースで、最も学んだことは長期遠征のリアルなリスク、その中での判断の重要性でありました。今回のアドバンスコースでの長期遠征において、我々のグループはその日その日に目標としていたビバーク地にはほとんど辿り着くことができませんでした。そして初日の遅れは、次の日の山行に影響し、また次の日へ…と言ったように日々リスクが積み重なり、繰り越されていきました。そのような計画を変更せざるおえない状況の中、みんなで決断するための話し合い、その決定までの過程の中に沢山学びがありました。現状把握、想定、目的の確認等をみんなで議論したことは指導者としての大事な経験であります。またその議論をする中で、自身の知識のなさなど課題も浮き彫りになったことも収穫でした。今回コースに参加させていただき、大変有意義な時間を過ごさせていただきました。この経験が自身の指導者としてだけでなく、人間的にも成長できる材料を沢山いただきました。講師の岡村バクさん、本当にありがとうございました。また多大なバックアップをしていただいた上北山村教育委員会の皆様にも重ねて御礼を申し上げます。


叶敬偉(クリース)
今回のWEAコースは終わってしまったが、何か寂しさが残っている。なんで寂しいかというと、時間が経ったのがとても早く、まだまだみんなと一緒にいたかったと思っている。まずは、先生たち、生徒たちと、上北村の村民への感謝を尽くした。ありがとうございました。初めて上北村に行って、村の中を北山川が流れ、周囲に大台ケ原と大峰山脈がそびえ立ち、なんて綺麗なんだろう!上北山の自然は今回のコースに最高の環境を提供してくれた。参加者は日本全国から集まって仲間を作った。私は外国人なのでみんなより、日本語がそんなにうまくなく、野外技術も始めたばかりである。しかし、みんながすごく協力をして助け合った。私が間違いをすれば、みんなは熱心に教えてくれた。コースでの私たちの人間関係とてもシンプルだった。素直な自分でコミュニケーションを取れることは、野外教育の一番の魅力だと思っている。コースでも言った通り、日本にきてから二年間ぐらい自己開示できていない。こんななんでも言える仲間を作ったり、一緒に勉強したりして、みんなで一つの目標に向かってがんばっている気持ちを持ちたかった。なんで日常生活が自己開示できないのかというと、一つは自分の目標と他の学生が違い、社会で人間関係が希薄になっているからだと思う。今回のコースは最高だった。みんなが蔵王堂の着いた時、心の中の蔵王堂にも着いた!みんなまた会おう!


森本弘太(まりも)
アドバンスコースからの参加でしたが、とても有意義な時間を過ごすことができました。実際に起こったことを元にコース進めていくことにより、体験と学習が結びつき質の高い学びとなりました。日々、お互いにフィードバックを行うことにより自分の内省の機会ともなりました。特にLODでは「自分がリーダーならどうするか」「どんなリーダーシップのスタイルを取るか」を具体的に考えることができました。遠征におけるリアルなディシジョンメイキングは机上では学べない、とても重要な時間でした。どんどん時間がすぎていく、水がなくなる、メンバーが危険になる。そんな状況下で冷静に論理的に判断していくこと。野外学習ならではの時間でした。今回集まったメンバーは、普段のフィールドや年齢も異なり忌憚のないフィードバックを受けることができました。会場であった上北山村はとても静かな環境でコースに集中することができました。宿泊施設としてお借りした旧小学校も設備が整っていて何不自由なく学習することができました。今回のコースのために場所を貸していただき、とても感謝しております。修験道しての大峰山はとても厳かで魅力的な場所でした。是非また訪れたいと思います。私たちの学びのためにご協力いただいた皆様、本当にありがとうございました。


田中和平(よっこ)
今回のWEAJ奈良コースは、自分にとってすごく意義があった日々でした。自分がこの研修で最も学んだことは、常に理論的に考えること、またエビデンスをもとに判断することの重要性です。2回あったエクスペディションでは、現在地がわからない、予定より遅れる、水がない…等、様々な状況が起こる、その状況に対して常に状況を応じた判断をグループで話し合い、そして合意形成をして様々な選択肢から最善のものを選択していく。その中できちんとエビデンスをもとに討議をすることで、目的を共有でき、全員で納得した結果を出すことができる。そしてゴールの蔵王堂についたときの一体感、達成感。極限の状況には日常生活に起こりうる様々なパターンが含まれており、この流れは教育効果としては非常に効果の高いものだと実感しました。また、今回の研修では自分自身についてもすごく考える時間でした。自己内省、自己開示、フィードバックこれらにより自分の本質を知るといったことがとても効果的に知ることができる、それを改めて感じました。今後はこの研修で学んだ考え方や手法を使い、多くの人により良い体験を提供できるよう指導者としても人間としても精進していきたいと思います。最後に、今回のコースではフィードバックをし合いながらともに学び、ともに高めあえたメンバー。適切な指導や評価をして頂いた講師のけんさん、ばくさん。また、素晴らしい環境を提供頂いた上北山村の皆様。そして大台ケ原や大峰山系の素晴らしい自然や歴史。本当にありがとうございました。


講師所感


林健児郎(けんさん)
日本のウィルダネス教育の発祥の地、奈良県大台ヶ原山系、大峯山系で開催された今年のOutdoor Leader Courseは、悠久の時とともに形作られた荘厳なウィルダネスの中、修験道の山岳信仰の息吹を感じながら、自然の中でトレーニグすることの真髄を学ぶことができた12日間でした。SPECモデルを実践しながら習得を目指したシックス・コア・コンポーネントは、講師、参加者相互でフィードバックを繰り返し、エクスペディションを通じてブラッシュアップすることができました。WEAのカリキュラムがウィルダネスでの学びを深め、ウィルダネスがWEAの指導者養成カリキュラムのすばらしさを改めて教えてくれました。実践力と理論の武器を身につけた、若き指導者たちの今後の活躍が楽しみです。開催にあたり、上北山村役場の皆様をはじめ、大台ヶ原・大峯山・大杉谷ユネスコエコパーク進協議会、パークレンジャー他、多くの方のご支援ご協力をいただきました。心よりお礼申し上げます。


岡村泰斗(ばく)
まずは今年も無事にコースが開催できたことに感謝感謝です。今後コースに参加した仲間たちが日本全国でWEAカリキュラムを活用して活躍できるようWEAJとしてもしっかりバックアップをしてきたいです。今回の奈良コースは、私にとっての念願のコースでした。一つは以前の職場である奈良教育大学在任中に大峰、大台は野外のフィールドとして思い入れがあることと、もう一つは、1300年前に興った大峰修験が、我が国のウィルダネス教育がルーツであることです。会場の決定に当たっては、かつての上司である奈良教育大学の松井先生に惜しみない協力を頂きました。また、ご紹介いただいいた上北山村教育委員会の山本さんには、会場の提供や、地元とのコネクションを含め温かく迎えてくださいました。また、大台ヶ原・大峯山・大杉谷ユネスコエコパーク協議会の西出さんは、当該エリアで活動する上で、心強い後押しを頂きました。そしてなにより、コース開催前夜に、「にーちゃんちょっとこんかい」と、宴の輪に招いてくださった地元のボランティア団体「孫の手会」のみなさんには、下見で疲れ切った体にコースに向けての活力を与えて頂きました。WEAが縁となり今年も多くの方との結ができました。この結がもっともっと広く、強く繋がりますように。


活動記録


9月16日(土)オープニングセッション
北は仙台、南は福岡から6名の野外指導者が集まり、ベイシックコースが始まりました。初日のノルマは、コースの理解、SPECモデル、ティーチングクラスのアサイメント(担当)です。中でもティーチングクラスは、WEA初体験の人にとっては大きなプレッシャー。しかもWEAのテキストは現在英語のみ。初日から英語のシャワーに一同じぇじぇじぇ。夜遅くまで、英語と教案作りに格闘していました。


9月17日(日)オープニングセッション(LOD:サカタさん)
いよいよティーチングクラスの始まりです。各自の担当した野外生活技術のクラスをティーチャブルモーメントに基づき指導しました。最初のティーチングは、わかっちゃいるけど、どうしてもガチガチのティーチャーセンタード。それでもクラスごとにフィードバックを重ね、お互いを良き反面教師とし、ティーチングのレベルは上がっていきました。台風18号接近の中、明日からのプレエクスペデッションに向け、準備万端です。


9月18日(月)プチエクスペディション(LOD:しゅうちゃん)
ルート初日の沢に台風18号の余波が残るため、この日はセーテフティーファーストで、ベースキャンプ周辺のフィールドを使って、緊急時レベルアップハイキング。この柔軟さがWEAコースの真骨頂。ショートロープ、ロアーダウン、ツェルト、ナビゲーション、搬送などをフィールドみっちり行いました。新しいギアにも泥がついてかっこよくなりましたね。


9月19日(火)プレエクスペディション(LOD:サカタさん)
1日遅れのプレエクスペディション出発。上北山商工会で、入山予定の西大台利用調整区のレクチャーを受け、いざ右俣沢へ。慣れない沢歩きで、不要な高巻きが多く、予想以上のタイムロス。沢でのビバークもリスク、そのまま登るのもリスク、早速エクスペディションならではの難しいジャッチがリーダーに突きつけられる遠征初日となりました。


9月20日(水)プレエクスペディション(LOD:よっこ)
西大台に向け最後の沢登り。源頭部に近づくにつれ、紛らわしい枝沢が落ち込み、道迷い。だんだん自分の地図コン技術に自信を失い、意思決定も人任せ。奥が深いぜナビゲーション。無事に西大台にたどり着くと息をのむほどの静寂な森。LNTのティーチングクラスには最高のシチュエーション。西大台で静かで、凛とする時間を堪能し、一路ビバーク地の逆峠コルに向かいました。


9月21日(木)プレエクスペディション(LOD:クリース)
長い下山路を降り、小処温泉に到着。2泊3日でしたが、学びの多い遠征でした。アドバンスコースが始まる前に、WEA6コアに基づき、自己評価とインストラクターからの中間フィードバック。アドバンスコースに向けて、各自新たなゴールセッティングができました。夜からはアドバンスコースの2名が加わり、気分一新後半戦。明日からの人生初の5日間の遠征に備え、ゆっくりと体を休めました。


9月22日(金)メインエクスペディション(LOD:まりも)
午前中にテキパキと5日間の遠征準備を整えます。違うコースに参加したメンバーでも同じ概念とテクニックで準備ができるのがいいですね。これぞグローバルスタンダード。この日は、一路大峰奥駆の中間地点前鬼がビバーク地。1300年間直系で守られ続けている日本最古(世界最古?)の宿坊。修験道に関するインタープリテーションで、一同1300年前に思いを馳せました。


9月23日(土)メインエクスペディション(LOD:しゅうちゃん)
この日は大峰山脈稜線へと一気に標高を上げる難しいルート。LODも2クール目に入り、各自しっかり課題を持って臨みます。時間よりもやや遅れ稜線に到着するも、その後の地味なアップダウンを繰り返す稜線に体力も時間も消耗。いきなり奥駆けの洗礼を浴びる。予定していた楊枝宿を断念するも、できる限り距離を稼ぎたい。またもや距離のリスクとビバークサイトのリスクの難しいジャッジ。この日は距離のリスクを排除し、なかなかの鋭いコルでの緊急ビバークとなりました。


9月24日(日)メインエクスペディション(LOD:よっこ)
前日の遅れを取り戻したくも、距離が縮まり、体力が増すわけでもなく、急ぎたいけど、急げないLOD泣かせの山行が続きました。ミスなく山行が進んだものの、力及ばす目的地の狼平を諦め、弥山小屋のテントサイトでビバーク決定(テン場有料、水有料、事務局とほほ)。おかげで大峰のど真ん中から綺麗な夕日を拝むことができましたね。


9月25日(月)ファイナルエクスペディション(LOD:クリース)
各自担当のティーチングクラスもお昼前にほぼ消化し、10日前までは何をやるにもぎこちなかったメンバーは、すっかり一人前のウィルダネスリーダーになっていました。イントラはこことで下山、残りのルーツは生徒のみで山行を行うファイナルエクスペディションに突入しました。ルート、時間、体力、全ての要素をクリティカルに分析し、最大公約数を見つけた時のみ達成可能なゴール。限られた時間で効率よくトリッププランを行い、弥山山頂を出発する後ろ姿を頼もしく感じました。


9月26日(火)ファイナルエクスペディション(LOD:せいちゃん)
ゴールの金峯山寺蔵王堂目指しいよいよラストスパート。前日も目的地まで到達できず、途中の大普賢の手前のコルで緊急ビバーク。しかも谷間で水を取りにいくなど残りの体力は、一つもミスも許されない。トリッププランニングでの絶望的な予測時間をどのタイミングでいかに短縮するか。ただ変わらない決意は蔵王堂を目指すこと。タイムリミットの17:00を30分過ぎたとこで、メンバーの目の前に現れたのは、紅の空にそびえる荘厳な蔵王堂。境内に響く夕方の読経の中、5日間のエクスペディションは厳粛に幕を閉じました。


9月27日(水)クロージングセッション
一晩経っても、体はガタガタ、足の裏はズキズキ。12日間の学びと疲労で心も体も飽和状態です。自然と人とが磨き合い、高め合うことのできるWEAのカリキュラムはいかがでしたか?一人静かに12日間の成長を自己評価し、インストラクターとの最終面接。Know what you know, know what you don't know. 誰もが己の強みと弱みを知り、これから続く長い野外指導者人生の大きなターニングポイントを迎えることができました。別れがたい仲間、去りがたい自然。今は勇気を持ってもこのコースを締めくくり、次はこの経験をみなさんの言葉と背中で日本全国に伝えてください。


写真サイト


Follow me!